地上の民族のはじまり③ セムの子孫
はじめに
聖書には気をつけて読むべき箇所があります。創世記10章もそうです。神は全世界を罪とその影響から救い出そうと忍耐強く人類に関わり続けて下さっています。先に9章でノアが自分の次男ハムとその子孫、特にハムの四男カナンとその一族の将来について厳しい預言をした箇所を学びました。だからと言って、彼らが神から永遠に呪われることを意味すると理解してはなりません。罪の誘惑を制御できず、罪に支配されて生きている現実が問題なのです。罪を悔い改めず、開き直って生きる時に計り知れない影響を未来に及ぼすことを神は人類に警告しているのです。聖書の記述から民族の優劣を決して決めてはなりません。その過ちがホロコースト、第二次世界大戦中のナチスによるユダヤ人大量虐殺の悲劇を生んだのです。
神が特別に選んだユダヤ民族は繰り返し神に背いた歴史があります。それでも、神の選びゆえに何度も歴史の舞台から消えては戻って来た民族だと言えるでしょう。
紀元前1200年頃にイスラエル民族が奇跡的にエジプトの支配から解放され、カナンに定住するようになった時も、神はイスラエル民族が他の民族に対して奢り高ぶることがないように次のように諭しています。
*申命記7章7節
「主があなたがたを愛し、あなたがたを選ばれたのは、あなたがたがどの国民よりも数が多かったからではない。あなたがたはよろずの民のうち、もっとも数の少ないものであった。」
*同9章6節
「あなたの神、主があなたにこの良い地を与えてこれを得させられるのは、あなたが正しいからではないことを知らなければならない。あなたは強情な民である。」
とある通りです。
また、聖書の記述によれば、戦を仕掛けたのは多くの場合、より軍事力と人数で圧倒していたカナンおよび近隣諸国の方であったことが語られています。
そして特に誤解を避けたいことは、神が滅ぼしたかったのはカナン地方に住む人々の人道に反する生き方と偶像礼拝なのであって、カナン地方に住む民族そのものを滅ぼそうとされたわけではないということです。聖書の記述と歴史が示す通り、実際にはその時代の多くのカナンの先住民は全滅せずに現代まで生き残ることになります。
神はこの世のすべての悪を根絶したいと現代まで忍耐強く関わっておられますが、それは想像を遥かに超えたご計画に基づくものなのです。そもそも人類最初の殺人事件を起こしたアダムとエバの長男カインの弟殺しという極めて利己的で罪深い殺人事件の場合もそうです。神はカインに厳しい裁きを下しますが、カイン自身が仕返しに命を奪われないように特別な保護を彼に与えたことが語られています(創世記4章15節参照)。神は人が犯す罪に対して最終的に必ず裁きを下されますが、その目的は滅ぼすためではなく、改心して正しく生きる者に導くためなのです。
神の愛と憐れみは、人類を罪と永遠の滅びから救うために遣わされたイエス・キリストの十字架の上での祈りに集約されます。当時としては最も苦痛に満ちた処刑方法だっただけでなく、永遠に呪われて死後の世界に突入することを意味する十字架刑にかけられてこの世での最後を遂げた主イエス・キリスト。その時、敵対者たちへの正当な裁きを祈り求めず、彼らが悔い改めて神に立ち返る機会が与えられるようにと祈りながら息を引き取ったのです。神の愛と忍耐力は私たちの創造を超える途方もなく大きいものであることに希望があるのです。
セムの子孫の系図が物語る神のご計画
創世記10章21-32節(11p)
21節セムにも子が生れた。セムは⑪エベルのすべての子孫の先祖であって、ヤペテの兄であった。
22節 セムの子孫は①エラム、②アシュル、③アルパクサデ、④ルデ、⑤アラムであった。
23節 ⑤アラムの子孫は⑥ウヅ、⑦ホル、⑧ゲテル、⑨マシ(合計9人)であった。
24節 ③アルパクサデの子は➉シラ、シラの子は⑪エベルである。
25節 ⑪エベルにふたりの子が生れた。そのひとりの名を⑫ペレグといった。
これは彼の代に地の民が分れたからである。その弟の名を⑬ヨクタンといった。
26節 ⑬ヨクタンに⑭アルモダデ、⑮シャレフ、⑯ハザルマウテ、⑰エラ、
27節 ⑱ハドラム、⑲ウザル、⑳デクラ、 28節 ㉑オバル、㉒アビマエル、㉓シバ、
29節 ㉔オフル、㉕ハビラ、㉖ヨバブが生れた。これらは皆ヨクタンの子(合計13人)であった。
30節 彼らが住んだ所はメシャから東の山地セパルに及んだ。
31節 これらはセムの子孫であって、その氏族とその言語とにしたがって、その土地と、その国々にいた。32節 これらはノアの子らの氏族であって、血統にしたがって国々に住んでいたが、
洪水の後、これらから地上の諸国民が分れたのである。
この系図の特徴は最初にセムの孫にあたる⑪エベルに焦点を充てていることです。エベルという名前は英語でHebrew、日本語聖書のへブル人への手紙の語源になっています。また、ユダヤ人の父と呼ばれるアブラハムはエベル人だったと創世記14章13節に書かれています。イスラエルの公用語である「ヘブライ語」という言葉もここからきています。創世記11章の記述によれば、エベルは464歳という驚異的な長生きをして、8世代先のやがてイスラエルと名前を改名するヤコブ(アブラハムの孫)が誕生するまで長生きしたことが判明します。エベルが特別に扱われている理由はここにあると考えられます。
次に聖書が強調しているのはエベルの息子の⑫ペレグです。彼の時代に世界を揺るがす大事件が起きます。次の11章冒頭で語られるバベルの塔の出来事です。この時代に全世界に広がるようにとの神の命令に逆らってバベルの塔が建設され、強大な権力国家が誕生しそうになりました。それを阻止して全世界に民族が広がっていくようにと神はそれまでの世界共通の言語を乱されました。そのために互いに意思疎通ができなくなり、それぞれの民族が周辺世界に散って行ったことが語られています。
これらの記述から聖書が暗に示唆しているのは、世界における最も旧い原語こそ、へブル語だということかもしれません。セムの子孫が増え広がった地域とは現在のイラク、イラン、トルコなどのチグリス・ユーフラテス川流域とヨルダン川東岸、そしてサウジアラビア付近だと考えられます。この地域にエベルの時代あたりにハムの長男クシの子ニムロデは元々増え広がっていたアフリカ中北部とカナン地方から北上し、セムの子孫が増え広がっていた地域に侵入して権力をその地の民の上に振るったことが伺えます。このあたりにもバベルの塔で象徴されている神の世界秩序に対抗しようとした民族を神が世界に散らされた動機が見え隠れしています。
神の民として全世界に増え広がりなさいというのが天地創造の時からの神の御心です。それに抗って現代でも国同士の主権争いや領土を巡っての争いが後を絶ちません。このような時代だからこそ、静まって神が世界を創造された目的、そして原点に立ち返るべきことを示されます。
聖書は自己正当化するために利用してはなりません。だれかを糾弾するために利用してもなりません。聖書は、徹底して神の御前に遜くだり、隣人のために自分を、家族を、国家を聖書の原則に従って神の愛と平和に導くために存在します。イエス・キリストがその主人公であり、模範です。
2025年5月11日(日) 北九州キリスト教会宣教題
「地上の民族のはじまり③ セムの子孫」
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