洪水物語① ノアの父の時代
はじめに
2025年最初の聖書講解シリーズは久しぶりに創世記に戻り、ノア物語から始めたいと思います。今回はその直前に語られるアダムからノアまでの系図を取り上げ、ここに語られている内容を深く掘り下げていきます。ここには耳を疑うような長寿を全うしたノアの先祖たちが登場します。これをどう受け止めるのか。あるいはノアに名前を付けた父親のレメク、彼はどのような願いを込めて自分の息子にノアと付けたのか。第5章の系図と共に、ノアが生まれるまでの時代的な背景を理解していきましょう。
ノアの父レメクが生きた時代背景を探る
創世記5章28-32節(6p)
28節 レメクは百八十二(182)歳になって、男の子を生み、29節 「この子こそ、主が地をのろわれたため、骨折り働くわれわれを慰めるもの」と言って、その名をノアと名づけた。
30節 レメクはノアを生んだ後、五百九十五(595)年生きて、男子と女子を生んだ。
31節 レメクの年は合わせて七百七十七(777)歳であった。そして彼は死んだ。
32節 ノアは五百(500)歳になって、セム、ハム、ヤペテを生んだ。
レメクが生まれるまで、5章の系図によればアダムから父親のメトセラまでの8代の祖父たちが存命であった。息子のノアが生まれた時は、アダムとその子セツと7代目のエノクは昇天している。レメクは777歳まで生きたとある。7という完全数が目立つ。これは信仰の継承という聖書の最重要テーマにおいて、最も成功した人物だからではないか。
⑥六代目ヤレド(降下という意味)162/962➡後継者が誕生した時の年齢/亡くなった年齢
それまでの歴代最高齢で後継者が誕生・人類史上2番目の長命。人類最初の殺人者となった叔父のカインの息子と同じ名を自分の息子にも付ける。カインの一族との交流が盛んになっていった時代背景が伺える。
⑦エノク(捧げられた)65/365<死なずに神のもとへ昇天した特筆すべき人物>
父や子どもより早く後継者誕生・ノアまでの10代の内最短命も、365日の365倍生きる。息子に付けた名前から推測し、当時部族間の戦いが起き始めていたことを示唆。
⑧メトセラ(やり投げの兵)187/969
歴代最高齢で後継者が誕生した記録を更新・人類史上1番の長命。メトセラも祖父の影響を受けてカインの末裔の影響を受けたことが伺える。
⑨レメク(強い=カインの末裔である周辺世界最強親族と同名)182/777
歴代2番目の高齢で後継者誕生・ノアまでの10代の内2番目に短命も、7の完全数
➉ノア(慰め)500/950
人類史上最高齢で後継者が誕生・洪水を生き延びた最高齢者
レメクのセリフに表現されている彼の信仰
29節 「この子こそ、主が地をのろわれたため、骨折り働くわれわれを慰めるもの」とレメクは自分の子にノアと命名した動機を説明している。この言葉からいくつかの重要な理解が導き出される。聖書で具体的な登場人物が神の固有名詞である「主」を用いて語っている箇所は貴重である(創世記4:1のエバのセリフに次いで2度目)。
4章最後の節である26節に「セツ(始祖)にもまた男の子が生まれた。彼はその名をエノス(死すべき運命の)と名づけた。この時、人々は主の名を呼び始めた。」と説明している。アダムの子二代目セツは(始祖)という意味。彼はどんな始祖なのか。推測としては、彼の代から神の固有名詞である「主=聖四文字YHWH」を「人々」が集団で「呼び始めた」ことに由来すると考えられる。つまりこの時代に礼拝が本格的に始まったことが表現されているものと考えられる。
また、セツはその子どもにエノス(死すべき運命の)などという名前を付けている。これは両親がいかに神に対して罪を犯し、人類に死と呪いが激しく影響を及ぼすようになったのかという理由や、兄アベルがなぜ死んだのかを伝承されたからであろう。それでも神は愛と憐れみを示されたことをセツは正しく理解した。それでセツは亡き兄アベルと父アダムの信仰を受け継ぎ、共同で礼拝することを始めた人類の始祖になったということが表現されているものと考えられるのである。
その後レメクの時代には人々の関心が神から離れていき、カインの末裔の方のレメクに代表される弱肉強食の時代となり、そのレメクにあやかって自分に「強い」という名前を付けられたことに複雑な思いを持っていたものと考えられるレメク。彼は正しく神の愛と憐れみに溢れた信仰を受け継いでいた。だから堕落していく時代に嘆いていた。歴代2番名の高齢で跡継ぎが与えられたレメク。ノアの誕生がどれだけ慰めになったことか。そんな彼だったからこそ、「この子こそ、主が地をのろわれたため、骨折り働くわれわれを慰めるもの」と語ったのであろう。レメクは神の固有名詞である「主」という言葉を堂々と用いた。「主」という神の固有名詞を用いるということは、神と人格的なつながりを持っていたことを表わしている。
このような人物にノアは育てられていくことになるのである。そして、彼はその使命を立派に果たす。だからこそ、レメクの余命には完全数7の複数形が用いられ、意図的に読者に彼の信仰継承の功績が分かるように工夫されているのではないだろうか。
出産年齢が延びていることが示唆していることとは
ノアの時代に近づくほど、神との正しい信仰を継承する者達の出産年齢が延びていることに気づかされる。ノアに至っては人類最高齢の500歳で長男を与えられている。この理由を聖書は明らかにしない。ただ言えることは、このことによりノアと三人の子とその妻たち8人が箱舟に入る最小単位になっていく道筋になっているのである。
神は世界を創造された時、「生めよ、増えよ、地に満ちよ。」(1:28)と祝福の言葉をかけられたはず。その言葉が発しにくくなるほど堕落していく人間とはいかなる存在なのであろうか。
それでも、神は正しい信仰の継承者を備えていて下さることに感謝したい。我々も共に協力して主の名を呼び求める群れであり続けたい。そうしながら地域に増え広がっていく思いを強め、福音宣教に励んでいこう。
【参照】ジョアン・コメイ、関谷定夫監訳「旧約聖書人名辞典」
2025年1月19日(日) 北九州キリスト教会宣教題
「洪水物語① ノアの父の時代」
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