洪水物語③ 箱舟設計図の秘密
はじめに
非常に大雑把ですが、聖書の暦によれば、今から6千年前(紀元前4千年頃)にアダムとエバが歴史に登場します。その後、ノアが生まれるまでのわずか千年の間に人類は神に背いて生きるようになったと聖書が語っていることに衝撃を覚えます。そのためノアが600歳の時に神が警告された全世界を滅ぼす洪水が起きるのです。これが今から約4千4百年前頃に起きたとされるノアの洪水物語。それは、罪と裁きと滅びと地獄から一人でも多くの人を救い出そうとされる神の救いの御業についての物語なのです。
ヘブライ語で「ハマス」!?
創世記6章11-22節(7p)
11節 時に世は神の前に乱れて、暴虐が地に満ちた。12節 神が地を見られると、それは乱れていた。すべての人が地の上でその道を乱したからである。13節 そこで神はノアに言われた、「わたしは、すべての人を絶やそうと決心した。彼らは地を暴虐で満たしたから、わたしは彼らを地とともに滅ぼそう。
神を悩まし、苦しめ、その時代の全地を滅ぼそうと決意されたのは地に「暴虐=ハマス」が満ちたからだと聖書は語る。注目したいのは、神がノアを目の前にしながら「すべての人」が地上でその道を乱したと語られたこと。ノア本人も、家族やその親類も「すべての人」の中にあったということ。ノア物語を読むと、ノアと息子三人とそれぞれの配偶者だけがその時代の中で正しい人たちであったと誤解してしまう。しかし、ノアたちも本来は滅ぼされる側にいたことをこの箇所は証言しているのである。
ノアの洪水物語の最後の方で語られる9章20節以降の話もそれを裏付けている。箱舟から出たノアは納付となその失態を他の兄弟たちに告げ口したのはハムであった。それを知ったノアはハムの息子であるカナンにまで呪いの言葉を放ってしまったのである。呪いを発し、愚かな行為をする人間とは何者なのか。そのような資格ないし許可を神は人間に与えていないのである。これが「ハマス」でなくてなんであろうか。
また人間の罪はそこで止まらない。人間は「地を暴虐で満たした」とある。その意味は「地=他の生き物」にまで「ハマス」の影響を与えてしまったということ。そのため神は「わたしは彼らを地とともに滅ぼそう。」と言われたのである。
箱舟を一から手掛けさせた神の意図
14節 あなたは、いとすぎの木で箱舟を造り、箱舟の中にへやを設け、アスファルトでそのうちそとを塗りなさい。15節 その造り方は次のとおりである。すなわち箱舟の長さは三百キュビト、幅は五十キュビト、高さは三十キュビトとし、16節 箱舟に屋根を造り、上へ一キュビトにそれを仕上げ、また箱舟の戸口をその横に設けて、一階と二階と三階のある箱舟を造りなさい。
神はとてつもない大きさの箱舟を家族8人で建造するように命じた。1キュビトは約0.5メートル。従って長さはおよそ150m、幅は25m、高さが15mの箱舟になる。これは一つの計算では大きめの学校のプールのくらいの敷地面積に、33階建てのビルを家族8人だけで建設するようなもの(それを横に寝かす)。そのためには建設する場所を確保する必要がある。山林の多い場所を選んだはず。そこに箱舟を作るための木を自分たちで切り倒し、形を整えた上でどこかに運ぶなり、保管して置かなければならないはず。中に塗るアスファルトも相当量を用意しなければならなかったはず。途方もない準備の期間を要したのではないだろうか。その上で少人数で一大箱舟建築をやってのけたというのがノアの箱舟物語の背後に存在するのである。
神の命令に従って指示通りに箱舟を作ることは人生をかけた一大決心と粘り強い根気がいる作業だったのである。無謀なプロジェクトだと周りのだれもが思ったことだろう。このバカげた箱舟プロジェクトのうわさが瞬く間に周辺諸国に広まったのではないだろうか。しかし、そのうわさと共に神がノアたちに大洪水に備えるように警告された情報も一緒に伝えられていったことだろう。箱舟を作る指示は全世界に向けた神の警告だったのでは。ノアたちも人々に大洪水に備えるように訴えたに違いない。しかし、だれも神がノアに伝えたことを信じて、自分たちの命を守る選択することはできなかったのである。
神と人とが互いに役割を果たしていく物語
17節 わたしは地の上に洪水を送って、命の息のある肉なるものを、みな天の下から滅ぼし去る。地にあるものは、みな死に絶えるであろう。18節 ただし、わたしはあなたと契約を結ぼう。あなたは子らと、妻と、子らの妻たちと共に箱舟にはいりなさい。19節 またすべての生き物、すべての肉なるものの中から、それぞれ二つずつを箱舟に入れて、あなたと共にその命を保たせなさい。それらは雄と雌とでなければならない。20節 すなわち、鳥はその種類にしたがい獣はその種類にしたがい、また地のすべての這うものも、その種類にしたがって、それぞれ二つずつ、あなたのところに入れて、命を保たせなさい。21節 また、すべての食物となるものをとって、あなたのところにたくわえ、あなたとこれらのものとの食物としなさい」。22節 ノアはすべて神の命じられたようにした。
神は人類に向けた救いのご計画をノアに打ち明けた。それを神は契約と言われた。この言葉も聖書では非常に重要な単語である。お互いに信頼しあい、一定の約束事を互いに守り、実行する必要がある。前述した通り、ノアたちの側ではかつてない神への信頼、信仰、忍耐と努力が求められる契約であった。しかし、それが彼らが命を保ち、また他の生き物の命を保つ希望へとつながる唯一の道だと神は教えられた。ノアたちは覚悟を持って、神の言葉を信じ、そして実行に移したのである。すなわち幾多の困難を乗り越えて箱舟を建造し、他の生き物たちの分まで食糧を集めたのである。
そして、ノアの洪水物語でさりげなく表現されているのが神の側の役割である。神はノアたちを選んだように、神の側で箱舟に入るすべての生き物を選別し、二つずつをノアたちが建造する箱舟のところまで導かれたのである。ノアたちはやって来た動物を箱舟に入れ、世話をするだけでよかったのである。これは神の側で大洪水が起きるまでに責任を持って取り組まれたことであった。22節にある通り、ノアはすべて神の命じられたように実行し、神は自分がすると言われたことをことごとく果たしたのである。
神を失望させ続けている人類。それでも、忍耐強く接して下さり、滅びないで済む方法を再び聖書とイエス・キリストを通して教え、導いて下さろうとされる神の忍耐と憐れみに感謝したい。
2025年2月2日(日) 北九州キリスト教会宣教題
「洪水物語③ 箱舟設計図の秘密」
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